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第2話


『モーニング娘。組』は、人の回転が激しい。
その日も、新たな隊士の加入があった。

「加入を認めます」

上座に座った口のでかい女。新選娘組副長、保田圭が入隊許可証を読み上げる。

(妙れすね)

道場の隅に座って入隊試験の様子を見ていた辻は、かすかな疑念を覚えた。
保田の前にはたった今入隊を許された少女がかしこまっている。
名前は高橋愛。
剣は、どことも知れない田舎流派の目録の腕。
喋る言葉はひどく訛っており、丸顔の上で見事な黒髪が光沢を放っている。
その少女を見る保田の目が、妙に熱い。

(保田さんには、その気はなかったはずなのれすが)

このところ、隊内には衆生が蔓延していた。
一部の幹部を始め、局内のあちこちで同性同士が擦り寄っているところをよく見かける。
が、保田に関してはその手の噂は一切なかったはずだった。

高橋と辻が接触する機会は、意外と早く訪れた。

「辻さん」

屯所の縁側で愛刀菊一文字の手入れをしているところに、声をかけられた。

「なんれすか」

刃に打粉を打つ手をとめないまま、辻は高橋に応じた。

「いま、道場で妙な人に会いました」
「妙な人?」
「稽古をするわけでもなく、ずっと菓子を食べているんです。
 米炊き女かなにかだと思って声をかけると、
 自分は娘組でも最古参の1人なのだから私ごときに指図されるいわれはないと」

辻は、思わず笑いをもらした。

「飯炊き女とは、あなたも酷いのれすね」

高橋は「はあ」と答える。
「それは安倍さんといって、娘組結成当時からの隊士なのれす」

6番隊隊長安倍なつみは『モーニング娘。組』でも最古参のひとりだった。
江戸試衛館で天然理心流を習得しており、その頃から局長飯田と交流がある。
ただし、剣技の方はお世辞にも明るいとはいえない。
最近ではろくな任務も与えられず、惰眠と暴食をむさぼっている。

「あれでも本人は幹部のつもりなのれすから、慎重に接するのれすよ」

おおまかに事情を話してやると、
高橋は「はあそうですか」とだけ言い残し、立ち去っていった。

(妙な子なのれす)

高橋は、5番隊の所属になっていた。石川梨華が率いる部隊である。
石川と副長保田は師弟関係にあり、実質高橋は安田の配下になったといってもいい。

辻は、なおも刀に打粉を打ち続けている。

「辻」

不意に、声をかけられた。

「後藤さん」

『モーニング娘。組』参謀、後藤真希。
格の違う女。そう呼ばれていた。
大流派である北辰一刀流の免許皆伝。
書画にも明るく、見聞も広い。
恐らく、いや間違いなく『娘。組』で最強の人物の1人だろう。

「なにか、ご用れすか?」
「うん? いや、別にい」

後藤の表情はどこか煮え切らない。

「また、なんか難しいこと考えてるのれすね」

後藤は、ひどく責任感の強い性格をしている。

『モーニング娘。組』のことを人一倍考えていて、考えすぎて疲労する。
悪循環の繰り返しを、辻は何度も目の当たりにしてきた。

「だったら、辻になんかいっても無駄なのれす。
 辻は馬鹿だから、いわれてもわかんないのれす」

いうと、後藤がすと辻の頭を撫でた。

「そんなこというもんじゃないよ、辻」
「れも…」
「辻は、いいコだよ。ごとーが保障する」

いって、後藤は微笑んだ。
綺麗な笑顔だと、辻は思った。
と、後藤が辻の横に腰をかけた。

「ねえ」
「なん、れすか?」
「辻は、どう思ってる? いまの『モーニング娘。組』のこと」
「どう、とは?」
「ごとーたち、元は剣と踊りのために集まったはずでしょ。
 でも、いまの『モーニング娘。組』はどう?
 斬ることだけが目的になってるみたい。
 ごとーたちの仕事は剣術家だと思ってたけど、
 なんだか殺し屋の集団みたい」

語る後藤の顔はどこか寂しげで、
辻は切ない気持ちになった。

「ごめんれす」

どうして、泣きそうになっているのだろう。

辻は自分で自分がわからない。

「辻は、難しいことわかんないのれす」

後藤は少し黙って、
「そっか」
また辻の頭を撫でた。

「辻は、それでいいんだよ。
 ずっとそのままでいいんだよ」





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