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第3話


***
色町、である。
嬌声
罵声
人の行きかう足音
楽曲を奏でる音
灯りの乱舞
明日をも知れぬ宿命を象徴するかのような喧騒が、界隈に満ちている。
その一角、料亭「和田屋」の2階。
障子の縁に腰をかけ、三味線をつまびく女があった。
銀色に輝く錦糸折りの着物の胸元を大きくはだけ、粋に着流している。

「ユニットでいーじゃん? 
ソロでいーじゃん?」

世を嘲弄するかのような、狂歌。
その響きに押し隠れるようにして、会話する声。
男と、女。男の方はまだ年若い。

「手はずはどうなったぜよ?」
「今のところ問題あらへんな。まったく普段どおりや」
「そんでいい。おんしゃ、そのまま見張りを続けるぜよ」
「了解や」

1人の気配が、消える。
同時に女は三味線を弾く手を止めた。

「今のは?」

女は、この色町を取り仕切る豪商「和田屋」を取り仕切っている。
裏でソロとユニットの両陣営に資金援助をしていることで知られている。
界隈では、「お相」などと呼ばれていた。
偽名である。
本名はソン・ソニン。
日本の国政を混乱させるために半島から渡って来た諜報員。
それが彼女の正体であった。
ソニンの問いに、黒い着物を着流した男がにっと笑って見せた。

「なに、人斬りぜよ」

この男、ハーモニープロダクション脱藩人ユウキ。
江戸下町に生まれ、桶町の千葉道場で北辰一刀流を学んだ。
が、色町での放蕩が明らかになって謹慎。
その後も放蕩癖が直らないため、ついに国外追放に処せられた男である。
ごく潰し。ソニンなどは心からそう思っている。

「人斬り?」
「人斬りみちよ。聞いたことがあるじゃろ?」

人斬り、平家みちよ。
乱世の京にあって、その名を知らぬ者はいない。
剣は、小野派一刀流。
かつてはソロ派の大一翼を担い、その剣碗を大いに振るっていた。
将軍つんくによる弾圧に遭い、処刑されたとされていた。

「処刑されたと聞いていたけれど?」
「なに、そこは」

いってユウキは剣を振るう仕草をして見せた。

「これぜよ」

放蕩者だが、剣の腕だけはたつ。
しかも逃亡術には卓越したものがある。
彼の腕をもってすれば刑場から抜け出させることなど、たやすい。

「なんせ命の恩人ぜよ。なんでもいうこと聞きよる」

ソニンは、気に入らない。
ソニンにしてみれば、ユウキは猿回しの猿に過ぎない。
その猿が、勝手に動いている。

「ユウキ」

答えるいとまも、与えない。
ユウキの頭をつかみ、ぎりぎりと力を込める。

「痛い! 痛いぜよ!」
「あんた勝手なことしてんじゃないわよ」
「そ、そんな…」
「あんたは、誰の持ち物なの?」

苦痛に歪むユウキの目に、一抹の媚が浮かんで見えた。

「あなたの…」
「そう。それでいいのよ」

支配欲を刺激され、ソニンは嫣然と微笑んだ。

「あんたはわたしの言うとおり、土佐弁を喋ってればいいのよ」

ユウキの顔に、恥辱の色が浮かんだ。

「なんで俺が、土佐弁ぜよ。
 土佐生まれはソニンの方じゃき…」





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