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第5話


***
天気のいい午後であった。
空には鳶が飛び、庭からは隊士たちが稽古に励む声が聞こえている。
飯田は局長室で寝転がり、得体の知れない鼻歌を唄っていた。
その横に、加護亜依がいる。
飯田の虎徹を抜き、刀身をまじまじと見つめている。

「飯田さん、これは虎徹じゃないで」
「えええ?」
「見たとこ、源清麿にニセの銘文を刻みつけただけのもんや。
鍛冶屋に騙されたんやな」

3番隊隊長加護亜依は、多芸者である。
剣や舞いはもちろん、声帯模写や梨の皮むきなど様々な芸を持つ。
刀剣類の鑑定も、そのひとつであった。

「でも、それ虎徹だよ」
「刃紋が散りすぎとる。虎徹にはこういう作風はないはずやで」
「いいの!」

飯田は頑固者だ。

「だってその刀、すっごくよく斬れるもん。
だからそれは虎徹。虎徹でいいの!」
「はあ…」

加護がため息をつく。
その横で、すっと局長室のフスマが開いた。
飯田の表情が硬く締まる。

「圭ちゃん」
『モーニング娘。組』副長、保田圭。

***
『モーニング娘。組』局長、飯田圭織は副長保田のことを「圭ちゃん」と呼ぶ。
さして仲がいいわけでも悪いわけでもない、といわれている。

「加護、悪いけどちょっと席外して」

いわれるまでもなく、加護は無言で退室していた。
後に残ったのは、飯田と保田の2人。
室内が重苦しい雰囲気に満ち溢れる。

「カオリ、ちょっと」
「なに?」

答える飯田の目は、硬く張り詰めている。
日頃加護や辻に対して見せるものとは、全く違う顔をしていた。

「最近、ちょっとおかしいと思うんだけど」
「カオリ、別におかしくないよ」
「いや、カオリのことじゃなくってね」

保田はちょっと苦笑した。

「この間の捕り物のこと」
「ああ、うん。
あれはちょっと、おかしかったね」
「他にも、最近あちこちでメロンやカントリーとはち合わせることが多くなってるみたい。
どこかから娘組の情報が漏れてるみたいな感じがしない?」

「うん…」  飯田は宙をにらみ、思案げな顔をした。
「新垣ちゃんからは、そういう報告は来てないけど」
観察方、新垣里沙は局内外の動向を逐一飯田や保田に報告する任務を負っている。

「だから、全くの死角から」
「うん…」
「それに、最近ソロの方で大掛かりな動きがあるっていう噂もある」
「うん…」
「カオリ、わかってるの?」
「え? うん」
「『娘。組』存亡の危機に追い込まれる可能性もあるんだよ?」
「うん…」

少し一度に情報を与えすぎたか。保田は思った。
飯田には、局長として『モーニング娘。組』の象徴でい続ける義務がある。
象徴は、常に悠然と佇んでいなければならない。
保田はそう考えている。
だからこそ保田は自ら汚れ仕事を買って出ていた。
権謀術数を巡らし、それこそ数え切れない数の隊士を粛清してきた。
飯田は、そういった頭脳戦は向いていない。
一度に複数のことを考えられない性質なのだ。

(だが…)
保田は、思う。
(いつまでもこのままでは困る)
保田自身、いつまでも生き続けていられる保障はないのだ。

「ねえ、カオリ」
「うん」

不意に、飯田が立ち上がる。

「どうしたの?」
「ちょっと、出てくる」

隊の制服である麻羽織を羽織る。
その飯田の横顔には、いつになく暗い影が差していた。

「例の店?」

フスマを閉める音。
後に残された保田は、陰鬱とした表情をしていた。





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